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はじめに
岡崎市民病院の久米勇人です。
今回、GE Healthcare社主催の「Signa甲子園2025」第20回記念大会で発表した演題をご紹介します。通常の心臓シネMRIは、心電図同期下で複数回の息止めを行い、各スライスの全位相を取得する方法が一般的に用いられています。本演題では、自由呼吸下で心臓シネMRIを撮像するための新たな撮像戦略について検討しました。
通常の息止めシネの問題点
皆さんもこのような経験はないでしょうか?
- 小児のため、鎮静下でないと検査ができない
- そもそも心機能が低下しており、息止め自体が困難
- 高齢者のため、息止めが十分に続かない
このように実際の臨床では、息止めがうまくできない患者も少なくありません。その結果、呼吸性アーチファクトの影響により、心機能を正確に評価できないという問題に直面しました(Fig.1)。

そこで本研究では、こうした問題を解決するため、
「止められない患者に止めない選択肢を」というコンセプトのもと、自由呼吸下で心臓シネMRIを撮像する手法であるFlexiCINE(Flexible Free-breathing Cardiac CINE)を提案しました。本研究では、このFlexiCINEを実現するための撮像パラメータの検討を行いました。
FlexiCINE(Flexible Free-breathing Cardiac CINE)の撮像戦略
通常の息止めシネとFlexiCINEの撮像戦略をTable 1に示します。

FlexiCINEでは、ASSETを使用せず、Multiple NEXを用いることが自由呼吸下においても心臓シネを撮像できるポイントとなります。
しかし、NEXの増加は撮像時間の延長を招きます。この撮像時間の調整において重要な役割を担うのが、1心拍(R-R間隔)あたりにk空間へ充填するデータ数を表すVPS(Views Per Segment)です(Fig.2)。

FlexiCINEでは、Multiple NEXによる呼吸性アーチファクトの抑制とVPSによる撮像時間短縮をどのように両立させるかが重要となります。本手法の撮像戦略は、画質と撮像時間のバランスを最適化することにあります。
3-1. VPSの最適化(EF誤差+ブラーリング)
VPSを増加させることで撮像時間は短縮できますが、時間分解能が低下するため、EFやブラーリングへの影響が問題となります。そこで、自由呼吸下でVPSを12~40まで変化させて得られたEFと、通常の息止めシネで得られた基準EFとの差が±5%pt以内であれば臨床的に許容できる範囲としました。その理由は、EFが測定者や解析方法の違いにより、一般的に±5~7%程度ばらつくことが知られているためです1)。
- Gandy et al., JMRI 28:359–365, 2008
その結果、すべてのVPSで、乳頭筋を含む場合・含まない場合のいずれの解析でも、EF差は±5%pt以内でした(Fig.3)。

VPSの違いによるEFへの影響は小さいことが分かりましたが、VPS≧32ではブラーリングが視覚的に目立つようになりました(Fig.4)。

以上より、画質と撮像時間とのバランスを踏まえ、FlexiCINEにおける最適VPSは28としました。
3-2. NEXの最適化(PSNR)
次に、最適化されたVPS 28に固定し、NEXを1~5に可変させて撮像を行いました。画像品質の定量評価には、NEX3を基準画像として、Peak Signal-to-Noise Ratio(PSNR)を算出しました。PSNRは基準画像と比較した際の画像の再現性を評価する指標であり、値が高いほど基準画像との差が小さく、良好な画質であることを示します。一般に30~40 dB以上であれば、ノイズやブレの影響が少ない良好な画質とされることが多いです。その結果、NEXが増加するとSNRは向上する一方で、撮像時間の延長により心拍や呼吸運動の影響を受けやすくなり、画像のブレが増加することでPSNRは低下しました。逆にNEXが小さい場合は、撮像時間が短いため動きによるブレは軽減され、PSNRは高値を示しましたが、SNR低下に伴うノイズ増加が認められました(Fig.5)。

以上より、画質と撮像時間のバランスが最も良好であった NEX = 3、VPS = 28 を、FlexiCINEの推奨撮像条件としました(Table 2)。

臨床応用
- 心雑音精査でみえたFlexiCINEの有用性
学校検診で心雑音を指摘された10代女児の症例です。FlexiCINEでは、自由呼吸下でも心内構造を明瞭に描出でき、4 chamberで明らかな中隔欠損を認めず、無害性心雑音と診断されました(Fig.6)。

- OMI後の壁運動評価にもFlexiCINE
70代女性の症例です。遅延造影所見と一致する下壁の菲薄化および壁運動低下を、FlexiCINEで自由呼吸下でも明瞭に描出することができました(Fig.7)。

- 縦隔腫瘍と大血管の位置関係評価にもFlexiCINE
60代女性の症例です。FlexiCINEでは、呼吸性および心拍動性アーチファクトの影響を受けにくく、血管を高信号に描出できるため、腫瘍と大血管との位置関係を明瞭に把握することができました(Fig.8)。

- FlexiCINEが広げる選択肢
FlexiCINEは息止めを必要としないため、小児、高齢者、心疾患患者など、息止めが困難な患者に有用な撮像法です。最適化したVPSとMultiple NEXを組み合わせることで、EFに大きな影響を与えることなく、臨床的に実現可能な撮像時間で高画質の画像を取得できます。
また、呼吸や心拍動によるアーチファクトの影響を受けにくく、従来の息止めシネでは評価が困難であった症例にも対応可能です。FlexiCINEはまさに、「止められない患者に止めない選択肢を。」を実現する、患者にやさしい新たな撮像戦略といえるのではないでしょうか。
ライター紹介

岡崎市民病院の久米勇人と申します。
このたび、Signa甲子園2025 第20回大会で金賞を受賞させていただきました。
当日、横浜の会場まで応援に駆けつけてくれた職場の仲間がいなければ、今回の受賞はなかったと思っています。MRに携わるなかで、素晴らしい後輩たちや他施設の皆さまと出会えたことは、私にとってかけがえのない財産です。
これからも挑戦者として、Signa甲子園のスターたちと切磋琢磨しながら、さらに成長していきたいです。
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