みなさん!!MRSだって面白いんだよ!!

はじめに

MRIfan.netの読者の皆さま、初めまして、東京女子医科大学八千代医療センターの吉丸大輔と申します。

まだまだ勉強中の身ですが、縁あってMR Spectroscopy (以下MRS)に触れることが多く、今回このようなお話を頂きましたので自分なりに皆様へMRSの面白さをお伝えできればと思います。宜しくお願い致します。

 MRSとは

ではまず簡単にMRSの紹介をします。

皆さんがいつもMRI撮像から得ているNMR信号には、化学シフト(磁化ベクトルの回転速度の違い:周波数)や、色々な信号強度(磁化ベクトルの大きさ)が含まれています。

励起直後にこれらは揃っていますが、時間と共にその大きさや速さが、各々の代謝物ごとに固有の変化をしていきます。このとき得られる信号がFID信号です。

さて、ここでフーリエ変換について述べますが、このフーリエ変換では、「時間軸」と「周波数軸」の入れ替えが可能です(その逆も)。

このため、横軸が時間軸のFID緩和曲線は、横軸が周波数軸のグラフに置き換えることができます。これがよく皆さんが目にするMRSのグラフです。スペクトルの出てくる位置(周波数)をもとに、分子の種類の特定と、存在量を見積ることができる仕組みになっています。

良いスペクトルを得るためには??

まず一般的に、正常脳の白質のスペクトルは、下に示すような幾つかのピークが、ちょうど右斜め上45度で上がるように見えます。これをHunter’s Angleと言います。

さて、以下の4つはHunter’s Angleに相当する角度が(45度ではなく)徐々に浅くなっていますが、この理由はわかりますでしょうか。

TRを固定し、TEのみ変化させていくとこのような変化になります。(1)TE 10 msec、(2)TE 30 msec、(3)TE 100 msec、(4)TE 288 msecで撮影しました。正常なのに45度ではなくなっていることに注意してください。

次にTEを固定した時のスペクトルの違いです。

左がTR2000msec、右がTR8000msです。各ピークの高さなどシャープさに違いが認められますね。

つまり撮像条件によって、スペクトルの見え方が変わってくるのです。当然ですが、物質(代謝物)ごとにT1値、T2値が異なります。ですから信号減衰の割合もそれぞれ異なり、全体で見た時に存在比が違うように見えたり、TEが延びることで捉えられなくなるピークも出てきます。こういったことを十分に理解して条件を変更し、かつ読影しないとスペクトルの解釈が変わってきてしまうので注意が必要です。

大事なのは半値幅!!

下図のように、半値幅が狭い場合、フーリエ変換前のFID曲線はなだらかな減衰をしています。逆にFID曲線の減衰が急な場合、その半値幅は広くなります。一般にMRSで我々が扱う指標は、各代謝物のピークとベースラインで囲まれた部分の面積(積分値)です。つまり同じ物質だとしても、得られるFID信号次第で半値幅が変わってしまうと、代謝物の量に当たる面積が異なってしまいます。

ではどうするのが良いのでしょうか?

これは普通のイメージングと一緒です。シミングをしっかり効かすことが重要になります。さらにはVOI(データ収集する場所)内、または近くに空気や脳室などを含まないようにすることで、FID信号の環境による減衰を避けることができます。シミング後の水の半値幅は少なくても10Hz以下が推奨です。

なので前立腺など腹部領域では排ガスなどを事前に促すことも重要です。

あまり知られていない小児のMRS

当院では、神経小児科教授である高梨潤一先生のもと、小児のMRSを積極的に施行しています。もともとMRS自体があまり普及していない?中、さらに小児のMRSは特に見たことのない方が多いのではないでしょうか?(下図)

これは正常小児のMRSのスペクトルです。初めて見た時、Choが高く、腫瘍など疾患があるのでは?と思いました。

小児期は、髄鞘代謝の指標であるChoが高く、逆に神経ネットワークが未発達なためNAAが低めになります。さらにmInsも高くなります。ChoもNAAも髄鞘化に伴い成人値に達し、概ね5歳前後と言われています。

イメージングでは捉えられない!?

小児の急性感染性脳症の画像所見は、発症3日後以降で観察されることが多いと言われています。しかし急性脳症の40%で画像所見がなく、特定症候群に分類できないそうです。

特定症候群に分類できなかった(画像所見がなかった)症例の中で、MRSにおいて興奮性神経伝達物質であるGlu(グルタミン)の上昇が認められた症例が見つかり、新しい脳症の概念として報告されています。画像として捉えられないものを臨床で評価できる!!ってすごいと思いませんか??

終わりに

最近では、MRIにおいてイメージングではなく、定量的に評価する手法も増えてきていると思います。その中でMRSは既に古株にはなるかもしれませんが、堅実な存在として君臨していると思います。今後の臨床、研究の一助としてMRSを選択することで、新たな発見がまだまだあると思います。まだやったことがない方は是非お試しください。

ライター紹介

東京女子医科大学八千代医療センターの吉丸大輔です。また現在、金沢大学大学院医薬保健学総合研究科保健学専攻の博士後期課程にて勉強させて頂いています。色々な方に出会い、助けられ、今の自分があると思います。同じようにいつか誰かに必要とされ、影響与えられるようなMRI技師になれるよう日々精進しています!

 

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