「B1+RMS」 って知っていますか?
皆さん、B1+RMSって知っていますか?私はつい最近まで知りませんでした。そこで調べてみると・・・安全にかつ合理的にMRI検査を行うために重要なキーワードでした。本記事は少し長いので、「B1+RMS」を学ぶための重要なポイントを以下に示します。
- 最新の添付文書を手に入れろ!
- 条件付きMR対応デバイスの条件に変化!?
- B1+ってなに?、RMSってなに?
- B1+RMSとSARの違い
- 体内金属がある場合のSAR制限管理の弱点
- Safety Margin
- B1+RMSと撮像条件の関係
またPDFをダウンロードできるようにしました。こちら
「添付文書に変化!?」
近年MRI対応ペースメーカーやMRI対応埋め込み型除細動器など、従来MRI検査禁忌だった体内金属がMRI検査可能になってきています。このように体内金属がある場合でも、一定の条件下であればMRI検査可能なデバイスを「条件付きMR対応デバイス」といいますが、これは2005年に米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials (ASTM))が設定した「MR Conditional (条件付きでMRI可能)」に該当するものです。
・・・でも条件付きという言葉に戸惑いを隠せないのは私だけでしょうか・・・? その条件はデバイスの添付文書に書いてあります。 SAR?、dB/dt?、磁場強度?、部位の限定?・・・たくさんの条件があり、またデバイスによって異なるわけですから混乱するのも当たり前です。つまり最新の添付文書をしっかり確認し、整理したうえで検査に臨むことが重要ですね。最新の医療機器添付文書の検索に役立つのは、pmda(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)のサイトです(https://www.pmda.go.jp).是非「条件付きMR」などでキーワード検索をしてみてください。
最近?、条件付きMR対応デバイスの添付文書内に変化があることに気づかされました。見慣れない言葉として「高周波(RF)強度: B1+RMS」 の記載があります(図1)。
これはIEC 第3版、JIS Z 4951 第3版 (いわゆる2012年版)の改定により B1+RMS の表記が追加になったそうです。つまり、この頃から条件付きMR対応デバイスの添付文書はもちろん、MRI装置メーカーもコンソール上でこの値が確認できるように変更してきているわけです。
「B1+RMS ってなに?」
ではこの「高周波(RF)強度: B1+RMS」について理解を深めていきたいと思います。まずB1とは原子核を励起するために用いる磁場のことでRF磁場の事です。またB1はプロトンの励起に寄与する「B1+」 とプロトンの励起に寄与しない「B1-」 の和から成り立ちます。直線上に変化する磁場を生成するLinear励起の場合、B1+が50% 、B1-が50% ですが、最近のMRI装置は、位相がπ/2ずれた正弦波状に変化する磁束密度ベクトルを直交する2方向から加えることで回転磁場を生成するQuadrature励起のため、B1+が100% 、B1-が0% となります(図2)つまり「B1+」の成分のみ考えれば良いわけです。
次にRMS (Root Mean Square)ですが、訳語は二乗平均の平方根の事です。これは時間的に変化する信号 (この場合はB1+磁場)を、時間的に変化しない実効的な大きさ (B1+RMS値) として表す際に用いる方法です。例えば図3のように、時間的に変化する波形の大きさ(面積)を知りたい場合に、RMSを用いて表現すると、波形をならして同じ大きさ(面積)になるような直流信号に変換することができます。つまりB1+RMSとは、時間的に変化するB1+磁場の大きさを、時間的に変化しない定数(実効値)に換算したものです。
「B1+RMS と SAR」
B1+RMSはRF磁場の強度のことなので、RFによる人体の発熱と密接な関わりがあります。人体の発熱管理といえば Specific Absorption Rate (SAR) ですが、体内金属がある患者における発熱管理はB1+RMSの方が優れると言われます。それはなぜでしょうか?B1+RMS と SARを比較しながら見ていきましょう。まず定義ですが、B1+RMSは被験者内のRFコイル中心部で励起に使われる磁界の磁束密度 B1+(t) の時間平均のことで、一方 SARは単位組織量当たりの吸収電力のことです。SARは図4に示すようにRF アンプにおける「送信電力と反射電力の差」を被験者の体重で除したものです。
体内金属がある患者における発熱管理をSARで行う場合、いくつか問題点があります。1つ目は、SAR制限管理は、送電線やコイルによる電力損失や体表での電磁波の散乱を考慮していないため、反射電力を過小評価(体内での発熱に寄与する電力を過大評価)し、制限に引っかかりやすくなってしまいます(撮像条件設定に苦慮する)。これは安全面ではよいのですが、診断に十分な画質の担保ができない可能性があります(図5)。
次にSafety marginというものがあります。SARはB1+RMSの2乗に、システム・人・部位によって変化する比例係数f を乗じたもので表されます。この比例係数f をSafety marginといいます.この値は各MRI装置メーカーに委ねられているため、図6のようにSARを1.0W/kgで制限をしようとしても、B1+RMS値は各社同じように制限ができないという問題があります。
またSafety marginを過剰にとっているメーカーはB1+RMS値が低く制限されるため、これによっても画質の担保という点で弊害が生じます。以上のように体内金属がある患者の発熱管理に、人体のRFの吸収に強く依存するSARを用いることは、撮像条件の制限やMRI装置メーカーごとに統一した制限管理ができないため、困難であることがわかります。一方B1+RMSは、人体のRFの吸収に依存せず、RFコイル中心部での励起に使われる磁束密度の大きさを見ているだけなので、体内金属にどの程度のRFが照射され、どの程度の発熱をするのかを直接的に表現していることになります。つまり体内金属がある患者はB1+RMSの方が発熱管理をしやすいわけです。
「B1+RMS と 撮像条件の関係」
B1+RMSと撮像条件の関係を知ることは、条件付きMR対応デバイス挿入患者のMRI検査を行う上で必須です。例えば撮像条件を変更するとB1+RMS値が変化するものとして、TR、ETL、Refocus FA、脂肪抑制パルス、DRIVE、MTCパルスなどがあります。つまりRFパルスの間隔・回数・強度のほか、予備パルスの有無に依存してB1+RMS値が変化します(図7)
また図8より、B1+RMS値を低減させる場合はSARを低減させるのと同じ考えでよいことがわかります。
B1+RMS値やdB/dt、スリューレートなどMR対応デバイスの条件に合わせて、細心の注意を払って撮像条件を変更することが現場の技師に求められ、シークエンスごとに調整と確認作業を繰り返します。これは非常に大変な作業ですが、最新のアプリケーションでは体内金属がある場合、安全に検査を行うアシスト機能 (ScanWise Implant) があります(図9)。
(フィリップスエレクトロニクスジャパン様よりご提供)。
これは患者登録時に、条件付きMR対応デバイスの制限値を数値で直接入力することで、シークエンスごとにパラメータを自動調整し、制限値に引っかからないようにアシストしてくれます。これによりシークエンスの調整・確認作業の負担軽減と、人の目による管理だけでなく機械による管理のダブルチェックが可能であり、現場の技師も患者もより安全に検査に臨めるのではないかと考えています。今後、条件付きMR対応デバイスの需要は増加すると思われるため、B1+RMSでの発熱管理がより注目されると思います。これを機に各施設でMRI検査の安全管理を見つめなおすきっかけになれば幸いです。
参考文献:
- 日本磁気共鳴医学会 安全性評価委員会. MRI 安全性の考え方 第2版. 2014
- 黒田輝. SARとB1+RMS. INNERVISION (30.9) 2015
- 荻野徹男.日本工業規格 改正の要点.INNERVISION (27.9) 2012
ライター紹介
「たかが1枚、されど1枚」の精神で、画像診断に取り組んでいます。
MRの無限の可能性に心躍ります。
東千葉メディカルセンター 坂井上之
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