Chief Editor’s comments
後半の、VR画像を使った脂肪抑制不良領域の防止は、これは目から鱗です。毎日の臨床を通して、同じ検査でも結果を改善しようという熱意に溢れています。どの装置でもこの工夫は応用できると思います。いやこれはすばらしい!
初めに
虎の門病院 放射線部 福澤圭です。今回は乳腺MRIに関する記事を書かせて頂きました。PHILIPS社のMRIで使用可能な「SmartExam Breast」の特徴であるImage based shimmingと、どの装置でも可能なポジショニングの工夫に関する内容です。
乳腺MRI
乳がんの術前広がり診断や、化学療法の効果判定などの目的で行われる検査であり、ガドリニウム造影剤による多時相ダイナミックを中心に拡散強調画像、T2強調画像など複数のコントラストの組み合わせで診断を行います。
乳房は脂肪に囲まれた臓器であり、病変の正確な検出には脂肪抑制の併用が必須ですが、山あり谷ありの型状で、なおかつ周囲は空気であるため、良好な局所シミングが出来ずに脂肪抑制不良が出てしまうケースもあるかと思います。
Image based shimming (IBS)とは
PHILIPSのMRI装置で使用可能な局所シミングの技術です。約1分間の撮像で得られる3Dの位置決め画像の情報を元に、乳房の形態を自動認識し、その形態に合わせたシミングを行うことで、従来の矩形シミングに比べて空気を含まないシミングが可能となり、安定的な脂肪抑制画像が得られます。乳房は、形・大きさ・治療による左右差などの型状の個人差が大きいですが、Image based shimming (IBS)を使用するとオペレーターが誰であっても同じように脂肪抑制が良好な画像が撮像できるため、非常に有用な技術です。
下図はIBSを使用した乳腺造影MRIの画像です。撮像範囲全体で脂肪抑制効果は良好で、全摘手術を行った右胸壁の再発病変だけでなく非患側の乳房も診断可能な撮像が出来ています。このようにIBSを使用することで、従来の矩形シミングで撮像が難しかった症例にも対応できます。
IBSは「無敵」か!?
答えは「ノー」です。IBSは素晴らしい技術ですが完璧とはいきません。臨床では乳房の大部分で脂肪抑制がうまくいくのですが、一部「苦手箇所」があります。例えば、下図の矢頭のように乳房の脇に皮膚の“たるみ”がある場合、同部位の脂肪抑制が不良となっていることがわかります。これは、脂肪抑制法として使用している選択的脂肪抑制法(CHESS法)の限界であり、脂肪抑制法を変更するか、ポジショニングによって“たるみ”を伸ばすことで解決します。使用可能な脂肪抑制法は装置のバージョンなどによって異なりますが、ポジショニングは、今すぐに、どんな装置でもできる有効な解決方法といえます。
乳腺MRIのポジショニング
皆様の施設では乳腺MRIのポジショニングを誰が行っていますか? MRIの撮像者が行う、女性技師限定で行う、女性の看護師さんにやってもらう…など色々かと思いますが、直接乳房に触れるポジショニングに関しては、マンモグラフィと同様に可能な限り女性が対応するようにしている施設が多いかと思います。当院でも、普段マンモグラフィを担当している女性技師にポジショニングのみお願いする場合がありますが、乳腺MRIの撮像経験はない技師がほとんどです。乳腺MRIにとって理想的なポジショニングは、脂肪抑制不良の原因となるシワや“たるみ”を無くすことですが、乳腺MRI自体の経験が無いと、どこをどうすればいいか分からないという事態になりかねません。そこで、当院では、教育を目的として、Image based positioning (IBP)という工夫を行っています。
Image based positioning (IBP)とは??
乳房のVolume Rendering (VR)画像を使って脂肪抑制不良となりやすい場所を把握し、それに基づいて(次回の)実際のポジショニングに応用するという方法です。先ほどの乳房脇の“たるみ”で脂肪抑制不良となった症例を例に解説します。まず、3Dワークステーションで造影前の画像を使って、脂肪抑制不良の領域を抽出します(周囲より高信号なのでワンクリックです)それに色をつけて乳房全体のVRに重ねあわせます。こうする事で脂肪抑制不良の原因となる“たるみ”を、立体的に把握できます。さらに実際にポジショニングの際に見る角度から表示することで、「このような“たるみ”は脂肪抑制不良の原因となるので、(次回は)引っ張って伸ばして下さい!」という情報をポジショニング担当者に伝えることが出来ます。
画像改善例
実際の画像改善例を提示します。左側が前回検査、右側が今回の検査です。左右の腋窩付近の“たるみ”を伸ばすことで、最下段の拡散強調画像(b1500)の画質が改善しています。脂肪がきっちり抑制出来た方がリンパ節の観察もやりやすいですよね。
皮膚の“たるみ”だけでなく、下図の矢頭部分のような乳房の“くびれ”なども脂肪抑制不良の原因の一つです。IBPの最大のメリットは、画像を使って様々な角度からじっくりとポジショニングについて考えることが出来ることです。そのため、前回画像からの反省と改善はもちろんですが、実際の患者さんに負担をかけずに、仮想的に検討出来るので、これから乳房MRIを担当する方への教育にも有効かと思います。
まとめ
多様な乳房の型状に対応可能なPHILIPS社のImage based shimming(IBS)と、MRIにとって理想的なポジショニングが視覚的に理解できるImage based positioning(IBP)の合わせ技で、画像全体の脂肪抑制が良好で診断のしやすい画像の提供が可能となります。IBPは装置メーカーに関係なく出来ますので、皆様の御施設でも是非試してみてください。
コメント
トラックバックは利用できません。
コメント (0)
この記事へのコメントはありません。