上腹部の脂肪抑制がうまくいかない!
上腹部の脂肪抑制T2WIを撮像する際、CHESS,SPIR,SPAIRなど周波数選択的脂肪抑制法を使用されているご施設が多いのではないでしょうか?当院もそうです。しかし、これらは磁場の不均一に弱いという特徴があります。皮下脂肪の厚みがある患者さんを撮像していると、たまにFig.1のように脂肪抑制不良を経験します。対策としては、ボリュームシムの範囲を変更したり、F0をマニュアルで合わせたりしますが、それでも上手くいかず、ドツボにはまることもあります。
CHESSからDIXONへ
そこで、脂肪抑制法をDIXON法(PhilipsではmDIXON)に変更して撮像できないかと考えました(何方でも思いつくことかもしれませんが…)。DIXON法は磁場不均一の影響が少ないという利点がありますが、上腹部の脂肪抑制T2WIに使用する頻度は低いと思います。その理由はエコーを2回取得する必要があるためです。1回目と2回目のTRが変わってしまうといけないため、”呼吸同期”や”横隔膜同期”では撮像できませんし、励起するスライスが変わってもいけないため、”自由呼吸”で撮像することもできません。以上の理由から、実際に撮像しようとすると、”息止め”という選択肢しかなくなりますが、単純に2倍の息止め時間になってしまいます。
Single Shot mDIXON
そこで、この撮像時間の問題を解決するために、今回はSingle Shotでの撮像を取り入れました。今までDIXON法をSingle shotで撮像したことはありませんでしたが、撮像してみるとブラーリングは多少気にはなるものの、20秒の息止め1回で撮像できるので、何度も撮り直すよりも有用だと思います(Fig.2)。一つ注意点としては、Philipsの場合、Single Shotでの撮像はScan modeがM2D(シーケンシャル法)に設定されているため、MS(マルチスライス法)に設定を変更する必要がある点です。私は最初ここでつまずきました。
また、圧縮センシングを併用するとノイズも少なく撮像できます(Fig.3)。この場合は、ハーフスキャンをなくして画像のボケを少なくする必要はあるでしょう。他にも実効TEを短くしたり、refocusing control angleを小さくするなどの工夫もしています。
実はこんな活用法も!?
当初、今回試したSingle Shot mDIXONは上腹部の脂肪抑制T2WIをターゲットにしていましたが、撮像しているうちに、違う用途でも使える可能性を感じました。
まず、MRCPです。基本的に3DのMRCPは呼吸同期や横隔膜同期を使用して撮像するか、GraSEを使用して息止めで撮像することが多いかと思います。今回のsingle Shot mDIXONを2mmギャップレスで撮像したところ、Fig.4のように膵管と膵嚢胞の位置関係が予想以上に観察できた症例がありました。また、実効TEはGraSE同様に短いため、Fig.5のように濃縮胆汁による信号低下の影響を受けにくい特徴もあります。かつ、DIXONを使用していますので、T2WIも同時に取得でき、腸管との位置関係も比較しやすくなります。ただし、2mmスライスかつ、通常のMRCPよりも分解能は悪いため、細い膵管まで描出できるようになるにはまだまだ改善が必要です。
次に期待できる用途は、整形領域などのSurveyです。痛みの場所が広範囲であったり判然としない場合は、今回のSingle Shot mDIXONを最初に撮像すると、炎症や浮腫の範囲を特定しやすく、後の撮像範囲の設定が容易になります。Fig.6は腰から骨盤にかけて痛みがある患者さんでしたが、最初に40秒でSingle Shot mDIXONを撮像すると、第5腰椎に所見があり、その後の撮像がスムーズにいった症例でした。
今後の可能性
当院では使用できませんが、現在AI技術を使用したノイズ除去のアプリケーションも使用され始めています。しかもこのAI技術、single shotと相性抜群と聞き及んでいます。ということは、今回ご紹介したSingle Shot mDIXONとの相性がいいと予想されますので、さらに高速でノイズの少ない画像が取得できるのではないかと思っています。そうであれば前述したMRCPも画質改善の可能性が大いにあり、使い道が広がるのではと考えています。
ライター紹介
プロフィール
日野智斐
くまもと森都総合病院 医療技術部 放射線科主任
熊本大学大学院卒
診療放射線技師9年目
趣味:ピアノ、料理、アニメ、将棋など多数
推し:櫻井優衣ちゃん(FRUITS ZIPPER)
子育て&家事奮闘中
当院では昨年、私と副技師長の2人が磁気共鳴専門技術者の認定を取得しました。医療の進歩に遅れをとらないように皆で頑張っています!
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