東芝装置における呼吸停止不良症例のGd-EOB肝細胞造影相撮像の工夫

毎年、年の瀬の恒例行事となっている東芝の画像の祭典 ”The Best Image”。今回は、2014年に入賞された作品をご紹介します。

結構多い?呼吸停止不良

肝臓など上腹部のMRI検査をやっていて困ること。それは呼吸停止が上手にできない患者さんが多い!ことです。私の住む北陸地方は過疎化が進んでいて高齢者の方々が多い地域です。そのためかどうかは分かりませんが、肝臓の検査を10人すると、2~3人くらいは呼吸停止不良な患者さんがいます。

みなさん、そんなときはどのように対処するかお悩みのはずです!呼吸停止時間を短縮するために、空間分解能を落としたり、パラメータを変更して再撮像を行っているのが現状です。
それで何とかなる場合もありますが、なかにはまったく息を止めることが出来ない患者さんもいます。
Gd-EOB肝蔵検査においては肝細胞造影相だけでもしっかり撮像出来れば診断能を向上させることは可能です!
呼吸が止められないのであれば呼吸同期撮像です!しかし、3D-GREをそのまま呼吸同期で撮像することには大きな問題があります。下図①a.bをご覧ください。どちらも造影20分後の肝細胞造影相です。左図aは呼吸停止撮像で、S3(矢印)に病変があることがわかります。右図bは,aで使用した撮像シーケンスに、単純に呼吸同期オプションを付けて撮像した画像です。図bでは全く病変が見えません。このように、単純に呼吸同期を行うだけでは実効TRが呼吸間隔となる為にプロトン強調画像になってしまい、特に造影コントラストが不良となります。撮像シーケンスは、3D-GRE(Quick3Ds)

図1

90°プリパルス

コントラストを付ける方法を考えました。それはプリパルスを追加する方法です。しかしIRを造影で使用すると、心筋遅延造影のように信号がNull pointになる恐れがあります。そこでIRパルスの角度を90°にする方法、すなわちSaturation recoveryでコントラストを付ける方法です。
Quick3Dsシーケンスに90°プリパルスと呼吸同期を併用するこの方法をResp-Quick3Dsと名付けました。概略を図②に示します。
図2

上図の上段が呼吸波形になります。中断がシーケンスチャート、下段が縦磁化の挙動です。まず患者さんの呼気を感知してTrigger delay(TD)分の待ち時間の後に90°プリパルスを印加します。そこからTIの待ち時間を置いてT1コントラストがついたタイミングでデータ取集を行います。この方法では1回の呼吸で1スライスエンコード分のデータを収集します。患者さんの呼吸状態や他のパラメータにもよりますが、だいたい3分程度で撮像が可能です。

このとき設定するTI値はどれくらいが良いのか?肝臓EOB検査では造影コントラストと脂肪抑制効果が画質の重要なポイントと考え、肝蔵、造影、脂肪の3種のファントムを作成しコントラスト比を測定しました。
結果を図③に示します。

図3

上図を見るとTI(横軸)を延長させると肝蔵/脂肪コントラスト(紫線)は改善し、逆に肝蔵/造影コントラスト(赤、青線)が低下しています。この結果から我々の施設では脂肪抑制効果と造影コントラストのバランスを考慮してTI300msが妥当であろうとの結論に至りました。

 【臨床画像】

下図④a.bは70歳代、高度肝硬変、S6 HCCのRFA治療後のフォローアップで来られた患者さんの画像です。高齢者で当日体調不良であった為、呼吸停止も不良でした。左図aの呼吸停止不良画像ではモーションアーチファクトの為に病変の状態(矢印)が不鮮明です。しかし図bのResp-Quick3Ds画像では治療を行った病変が鮮明に確認できます。コントラストも良くモーションアーチファクトも見られません。この2つの画像の違いはプリパルスの有無だけです。

図4

呼吸停止不良な患者さんにおけるGd-EOB検査の質を向上させる工夫を紹介させていただきました。この方法はFFE3DシーケンスとIRが併用できる装置であれば撮像可能です。呼吸同期なので撮像時間は基本的に気に留める必要はなく、高空間分解能化やThin-slice化も可能です。これによりパーシャルボリューム効果も低減し診断能を向上させることが出来ます。検査時間が許せば呼吸停止が可能な患者さんにもプラスアルファとして追加しても有用と考えます。
また、TEをin-phase、opposed-phaseにすれば副腎などへの応用も可能です。東芝装置はIRパルスのFlip angleが1°~180°まで1°単位で変更可能なのでもっと良い条件が見つかるかもしれません。みなさんもぜひいろいろチャレンジしてみて下さい!!

手前味噌ですがこの検討で画論The Best Image 2014の1.5T部門 最優秀技術賞を頂くことが出来ました。今後もいろいろ検討を行っていきたいと思います。

参考文献

  • 平田恵哉 他、[O-3-318]プレパルスを使用した呼吸同期3D-T1WI(Resp-Quick3Ds)の検討.第42回日本磁気共鳴医学会大会抄録集、2014
  • 渡千寛 他、270 プレパルスを使用した呼吸同期3D-T1 強調画像の検討 -マトリクス数とセグメント数の検討-.第42回日本放射線技術学会秋季大会抄録集、2014

    Writer紹介

    平田 恵哉(金沢医科大学病院)

    図5 MRIはやればやるほど謎がどんどん深まっていくモダリティだと日々痛感しています。シーメンスTrio Tim 3T、Avanto 1.5Tと2013年度から東芝Titan 1.5Tを使用しています。メーカーが変わることでまたいろいろな発見があり興味の尽きない毎日を過ごさせていただいています。

    最近の趣味としては休日のちょっとした料理です。子供達がから揚げ好きで、いろいろレシピを見て作っているのですがなかなかお店の味には近づけません・・・。下味の調味料の割合や漬け込み時間などいろいろ試すのがMRのパラメータの試行錯誤と同じで自分の性分に合っているのかも知れません。

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