当院における白質病変の検査は、今までFLAIRやSTIRを使用していました。
しかし、近年では、DIR 法で白質信号を抑制して病変検出率を向上させるテクニックもあり、当院でも行ってみたいと考えました。

DIRとは?

Double Inversion Recovery法の略称で、その名の通り反転パルス(IR pulse)を2回印加し、対象とするものの信号を抑制した画像です。当サイトでもDIR法についての記事(茂木 俊一さん、社団高仁会 城西クリニック放射線科)が載っていますので原理などはそちらをご覧ください。

どの装置でも!?

DIR法はどの装置でもできるわけではありません。東芝装置では、最新のアプリケーションを搭載したM-POWER V3.1以上で使用できます。
当院の装置は歴史を刻んできた名機であるためDouble IRは使用できません。それでも、求められれば応えるのがMRI operatorの使命。何か手立てはないかと考えました。
原理的には、脳脊髄液の信号と白質信号を同時に抑制したT2強調画像です。言い換えれば、FLAIRから白質信号を抑制すれば良いことです。

サブトラクション!

まずはBaseとなる画像をFSE法でのPDWI(プロトン密度強調画像)としました。下図(左)のように、FLAIRに近い画像が得られます。

図11
PDWIは、組織内のプロトン量を反映させた撮像法であり、T1,T2値の影響は極力抑えられています。しかしFSE法でPDWIを撮像すると比較的臨床で用いられるTRの範囲では、長いT1値である脳脊髄液は、次のRFパルス(90°パルス)印加時には、縦磁化が回復途中にあります。そのため本来ならば、T2値が長く脳組織よりも高信号になるべきなのですが、低信号で描出されます。脳室周囲の病変は等信号~高信号となるため、FLAIRに似た画像を得ることができます。(詳しくは「MRI自由自在」p.127参照)

▲重要 FLAIRから白質信号を抑制するためには、白質強調画像を取得することです。そこでさきほどのPDWIにinversion pulseをいれてTI値を変化させ、さらにDIR likeになる条件を探しました。このときの画像が下図上段です(下段は後に説明)。inversion pulseを入れているので、撮像法は、IR法(Fast IR (FIR)法)ということになります。
図114

上段TI値400msに注目してください。灰白質の信号は抑制され、白質は高信号に描出されています。下段は、FLAIRから上段の画像(FIR法)をサブトラクションしたものです。TI値400msの画像を用いれば、白質が抑制された画像が得られていることが確認できます。

図113
各組織のnull pointは上図になります。灰白質のnull pointは400msになっているので、画像と理論は合致しています。

下図のように、FLAIRからTI:400msにて得られたGray matter attenuated IR(GAIR : 灰白質抑制画像)をサブトラクションすることで、White matter attenuated IR(WAIR:白質抑制画像)が完成です。

図7

下図は、DIR(like)画像と東芝 Vantage Titan 1.5Tで撮像したDIR画像の比較です。
図200

遜色のない画像が得れています。
撮像時間はFLAIR で3分30秒、GAIR(FIR法)で2分20秒です。合計で約6分程度です。
臨床においても今現在問題なく使用しています。どの断面でも可能です.
図2

症例

図1

多発梗塞です。病変部が明瞭に抽出されています。

図15

転移性腫瘍です。造影剤が使用できない方でしたが、腫瘍周辺の浮腫性変化を明瞭に描出しています。

最後に①

これでどの装置でもDIR(like)画像が得られます!
ただ、2D撮像なので多方向観察をするには、その分のFLAIR とGAIR(FIR法)が必要です。

また差分により作成をしますので、患者さんが動いてしまった場合は画像になりません。
患者さんへの説明と、固定をしっかりお願いします。

最後に②

この内容は2015年12月に行われた、東芝メディカルシステムズ主催である画像の祭典”画論”で、最優秀賞を頂いたものです。FLAIRとPDWIが撮像できれば、どの装置でもできることと思います。一度試してみてください!
こんなトロフィーを頂きました!

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